「時代を超えて残るものの意味」

言わずと知れたインドの超有名世界遺産タージマハル。今は大気汚染で空が霞んでしまい、晴天時でも深い青色とのコントラストのパンチが効かなくなっているのが残念だが、白亜の霊廟は絶え間なく世界中の人々を惹き付ける。

ムガール帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、亡くなった最愛の王妃のために22年の歳月をかけて作った墓。皇帝には側室もありハーレムもあったわけだが、その中でも一人の王妃を一途に愛し続けた、その愛の深さの象徴とされている。これがロマンチックで素敵・・・・・とは全く思わない。

権威を誇示する建築を好んだ皇帝は、他にも多数の巨大建造物を作ったが、特にこの墓のために莫大な建設費をつぎ込み、国の財政が傾くことを恐れた息子に幽閉されて死去する。

ムガール帝国は、中央アジアからインドに進出した初代皇帝が建国し、シャー・ジャハーンの祖父に当たる第3代皇帝アクバルが、人生の全てをかけて作りあげた大帝国である。シャー・ジャハーンの時代に最盛期を迎えるものの、祖先の基盤の上に築いた国力を、すでにこの世にいない妃一人のために浪費するなど、統治者として、とても褒められたものではない。

それをロマンチックだの何だのと宣伝するのは空々しく、まるで魅力を感じずにいたのだが、あるときふと、考え方が変わった。

彼がこれを作ったことで、今のインドはどれだけ恩恵を受けていることだろうか。1636年の完成後、300年以上後の後世の国の象徴となるなど、彼は全く予想だにしなかっただろうが、年月を経ても揺るがない建築は、さすがは大金をつぎ込んだだけのことはある。

いまや全人類に知られる有名建築物として、これだけ世界から人を呼び込むのだから、シャー・ジャハーンは間違いなく、現代インドに最も利益をもたらしている人間の一人と言えるだろう。

人間が行うことの善悪は、一生の短いスパンでは測りしれない。時間の尺度を広げてみると、凡人には判断できないことがたくさんあるのだと、この巨大な大理石の墓を見るたびに思うのである。