シカゴ ~~ レイクショア・ドライブ・アパートメント

建築ツアーのアテンドで、シカゴに、ミース・ファン・デル・ローエの建築を見に行った。

郊外にあるファンズワース邸の見学を終えてシカゴの町に戻り、次の目的地、ミシガン湖沿いのレイクショア・ドライブ・アパートメントに向かった。

見学客を受け入れる観光施設ではなく、普通に人が暮らしているマンションである。交通量の多い大通りには車を停めておけないので、ビルの周りをゆっくりめに走ってもらって、窓から建物を見ることになっていた。


しかし、実際にビルの前に来ると、走り抜けるだけでは余りにも残念だ、という気持ちが湧きあがり、ちょっとだけ下車して写真を撮ることになった。ドライバーには、適当に町を走って時間をつぶしてもらい、10~15分くらいでまた戻ってきて、と頼んで、車を降りた。

何か月も前から計画していて、やって見に来た場所である。
ビルの前に立つと、みな一斉にシャッターを切り始めた。


ツインビルとなっている真ん中のコートヤードでは、ちょっとしたパーティーが行われているようだった。たまたまそこからビルの入口に向かって歩いてきた男性が私たちを見て、「ここは私有地だから、住人以外の方は立ち入り禁止ですよ」と言った。


長居できないことは最初から承知していたので、早々に退却するつもりだった。失礼のないように、一応説明だけしておこうと思い、「私達は建築家のグループです。ミースが設計したこの建物を見るために、遙々日本からやって来たのです。お邪魔はしませんので、少しだけ外観の写真を撮ることを許してほしい」と伝えた。


有名建築物なので、海外からも見学者が来ることには慣れていると思うのだが、「え? わざわざ日本から、このビルを見に来たの?!」と驚いてくれただけでなく、「ミースのお孫さんがいるから、会って行けば?」と言う。

奥のコートヤードのパーティーに集う人の中でも、一際背が高く、すらっとして目立つ男性を指差した。「彼がミースのお孫さんだよ」


彼はまたパーティー会場に歩いて行き、お孫さんという方に話をした後、私たちの方に戻ってきて、こっちに来てくれるそうだから、ちょっと待っていればいいよ、と言って、そのままビルの中に消えて行った。親切な人もいるものだ。私はドライバーに電話して、ちょっと時間を取りそうだから、どこかの駐車場に入れて待機していて欲しいと伝えた。

しばらくして、ご本人が本当にやって来てた。
「今日パーティーがあることを知っていたの?」と聞かれたので、何のことかと思いきや、年に一度、マンションの住人が集まるパーティーがあり、そこで彼が皆と会って話をするのだそうだ。365日分の1日の、さらに1~2時間という絶妙なタイミングで、たまたま私達はそこに降り立ったということだった。


彼自身も建築家で、最上階のペントハウスに住んでいるのだそうだ。一緒に写真を撮らせて頂いた後、彼は私達が予想だにしなかったことを口にした。

「中を見たいですか?」

そして、そのまま私たちをビル内のエレベーターへ案内すると、セキュリティーガードとにこやかにあいさつを交わし、2つに分かれてエレベーターへ。小さなエレベーターは、5~6人でいっぱいになるサイズで、ガードマンも一緒に乗った。

マンションは、ワンフロアが8世帯に分かれていて、最上階だけが特別に広く2世帯になっているとのこと。1つのマンションが4世帯分の広さなのだ。
中に入れて頂いた。雑誌でしかお目にかかれないような住居。


派手さは全くなく、シックにまとまっていて、家具やインテリアのディテールが際限なく美しかった。リビングのワイドな窓からは、ミシガン湖の全景が見渡せた。眼下には湖を走るたくさんのヨットが見えた。


飾ってあるシンプルな写真立ての一つ一つにさえ、センスの良さがにじみ出るような、そんな空間だった。


たまたまやってきた見ず知らずの外国人グループを、自分の住居に入れてくれるなんて、日本の感覚ではとうてい考えられない。建築家のグループだから、ということを考えても、である。


不思議としか言いようがない幸運だったが、同行させて頂いたグループに特別な体験が降って湧いたことは、本当に嬉しかった。

検索してみると、マンションのサイトがあった。

http://860880lakeshoredrive.com/860880lakeshoredrive/LandingPage/hp_wide.html

(写真はこのトップページから頂きました)

ギャラリー、間取り図、建物の歴史、オーナー用のログインもある。住人向けのイベントの写真もあった。

キャッチフレーズも素敵だ。

21st century Artful living in Chicago’s

20th century architectural masterpiece